ケーカク的しつけ

フェレットのしつけの日記を書くケーカク

二日酔いの日記

 

 

 

 酒を飲んだ翌日の朝のホームは、飛び降りたくなる。目を閉じ、音楽を聴く。生ぬるい空気に包まれた自分の体にグルーブが流れ込み、アルコールと睡眠不足で混濁した頭が自然と前に傾く。目を開ける。こわいのだ。自分のからだは白線のうちがわにあるのか。

 はじめて駅のホームに飛び降りる妄想をしたのはたしか5歳くらいの頃で、あれは西武線池袋駅だったと思う。行き止まりのホームが向かい合って電車を受け入れる。その電車が去っていったあとに残る空間。その、ホームひとつ分、線路ひとつ分の空間。そこを跳べるんじゃないかと思う。この妄想は、ビルから飛び降りムササビのように滑空していく夢を身始めたころに思い浮かべるようになった。ぼくは落ちる。自らの意思で。けれども落ちないのだ。

 昨日は高校の後輩たちと打ち合わせをした。打ち合わせと言う名前の飲み会。くだ巻き。くだをまく大学生男子の集会なんて、ゾッとする。ルサンチマンと自己愛の巣窟じゃないか。でも、ぼくはそのなかにひたりにいく。自分がとてつもなく大きな存在になったかのような気分で、酒を飲み、意見を交わし、悪口を言い、眠くなり、それは非常に自我に反する行為だ。ほとんど思考をしないでぼくらはしゃべり続ける。

 そこから終電を逃し、友人の家に泊まり、朝。ぼくは駅のホームで跳び降りる妄想をはじめる。予想したとおり、ぼくは落ちなかった。電車は成功裏にホームへ滑り込み、ぼくは安心して都会へ向かう満員電車に乗ったのだ。

 いつまでも音楽をやってるなんて子供だ。愛すべき子供か、ただのバカだ。高校時代に、自分の所属していた部活動が学校の教師や生徒たちから掃き溜めのような扱いを受けていたらしいと聞いた。その学校に行かなくてはいけない。ぼくは教師になんてなれないというのに。

 二つの空があって、ぼくには一つしか見えない。赤い空、青い空はいつの間にか見えなくなったが、気づけば周りの人間は青い空を見ている。ぼくは盲目のように歩いた。おかあさん、赤い空が見えるよ、嘘じゃないんだ。